2014年 私的ライブレポ①

Posted on 2014年5月20日火曜日

それは突然やってきた。
昨年末、発表されたと思ったら数日後には先行チケットが発売されるという慌ただしさ。
来年の春の予定なぞチェックしてるヒマはきっと誰にもなかったに違いない。

そんなボブの通算7度目の来日は、ほぼひと月に及ぶ「謎の長居ツアー」だった。
これは恐らく、ボブ史上最も長い日本滞在だ。

ほぼひと月も日本にいたのにその間の街での目撃情報は一切なし(ライブ会場裏を除く)。
どんなスターでもちょっとぐらいは目撃されるもんだろう。人によってはホテルまでバレてたりするのに。
ボブの場合、空港にはプライヴェートジェットでこっそり到着、新幹線で新大阪駅に着くことも秘密、ホテルはもちろん、どこで何食べてるのかも内緒という、露出は一切しない主義。
聞いた話によるとツアー中のボブは一人で食事を取るらしい。ツアー用バスにも一人で乗る。バンドマンたちとは別行動が当たり前。寂しくないのか?ボブ。


「ボブは朝ご飯に一体何を食べてますか?」
過去、ボブの代理人にそんな質問をした記者がいた。返って来た答えは…

"Next question."

しかしファンというのは最後、くだらないことほど聞きたくなるものだ。
私は知りたい。
ボブの好きな食べ物、飼ってる犬の名前、何時に眠りにつくのか、何時に起きるのか…。くだらない。
しかし、私は言いたい。その食べ物が何であっても、私も明日から好きになると(たぶん)。

2014年3月31日

東京お台場にあるZepp Diver Cityというライブハウスがツアー初日の舞台だ。
私はステージから6、7列目にいた。4年前より近く感じる。
私は背が低いので、ライブハウスは立ち位置が全てだ。ありがたいことに私の前には背の低い女性が多く、ステージのマイクスタンドに向かって道が出来ていた。私はそれを「ロードトゥボブ」と呼ぶ。

ボブがセンターに来ると彼の膝まで、ピアノに向かうと顔の正面がバッチリ見える。
代わりに、ステージ左にいるトニー・ガルニエ(ベース)とスチュ・キンボール(ギター)はあまり見えない。もちろん私がボブばかり見つめているからだが、痛くなってきた首を回したときにスチュの顎から汗が迸り落ちるのが見えた。ステージはライトできっと熱いし、ボブに合わせるのは想像以上に大変だろう。しかしボブ自身は常に飄々としていて疲れは見えない。

私は感動のあまり3曲目ぐらいまで断続的に泣いていた。頬は50分後の休憩時間まで濡れていた。
また生ボブを拝むことが出来るとは、日々の行いが良いからだろうか。

ボブにとってこの東京初日が2014年始まって最初のライブとなった。
世界中の人が注目していたのはそのセットリストだ。

4年前のボブは、何が飛び出して来るか分からないビックリショーのようなライブをしていた。
その年、私は兄と「演奏してもらいたい曲リスト5」というものを作って、「もしその曲を歌ってもらえたら自分のためだけに歌ってくれたということにして互いを讃え合う」という勝手なイベントを開催したりした。これがどれだけ難しいものか、変動する当時のセットリストを知っている人には分かるだろう。
ボブは当時、新作だった『Together Through Life』を中心に昔のヒットソングを多く盛り込んで来ていた。
そして私はライブを待つ間に考えた5曲のうち、何と3曲を歌ってもらうという快挙を成し遂げたのである。

Our Request That Year

Mine:
Just Like A Woman
Shelter from the Storm
Ain't talkin'
She Belongs To Me
Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again

太字になっているものが(私のために)演奏された曲だ。

しかし2013年春からボブは、このビックリショーをやめてしまった。
昨年を通してほぼ全てのライブが " Things Have Changed " から始まり、" Ballad Of A Thin Man " か " Blowin' In The Wind " で終わっている。
新作『Tempest』の語るような歌をメインに、古い曲を数曲に留め、ときどき一曲だけ差し替えたり、歌う順番を変えたりする。

もうビックリショーのような芸当が出来なくなったとか、そうではない。何故なら昨年11月6・7日にイタリア・ローマで行われたライブだけは曲目が大きく変わっているからだ。
今やもうこの事件は「ローマの謎」として語り継がれている。

さてそんな2013年を経て、ファン注目の2014年春ツアーはどう始まったかと言うと、これが驚くべきことに、2013年と全く同じだった。

ここにボブの狂気を感じるのは私だけだろうか。

2013年に行われたライブは85回。うち83回はほぼ同じものを歌っているということになる。
普通は飽きる。普通の人なら。

だから東京初日に " Things Have Changed " から始まったとき、私の心は少しざわついた。
ボブが…まだやってる!!!と。
確かに、ライブで聴けて嬉しい曲は沢山あった。" What Good Am I? " は大好きな曲だし、" Blind Willie McTell " は今回のツアーでは初日でしか歌われなかった。

ボブ自身の狂気をよそに、ライブハウスにいる人々はボブの声、ハープの高い音、時々キメる不思議で不自然なポーズに熱狂した。
ボブは歌の途中でスタンドからマイクを抜き、演歌歌手のように熱唱した。
と思ったら歌の途中なのにマイクを戻し、ゴトゴトとノイズを入れた。
私は声も無く爆笑した。そんな自由なボブが大好きだ。

初日で特に私の胸を打ったのは " Duquesne Whistle "、" Love Sick "、" All Along the Watchtower "だろうか。どれもボブがノリノリに見えたからだ。
" Love Sick " のときなどは目が合ったような気がしたのだが、どうせみんなそんな気がしてるんだろ。

ライブ終了後、のぼせた頭を抱え会場の出口へ向かうと、2階席から下りて来た人が目の前を歩き始めた。何故だか見覚えのある後ろ姿、時々見える横顔。

みうらじゅん氏だ!!

冷静であれば勇気を持って近づき、サインだとか握手だとかをお願いできたかも知れない(目の前にいたんだから近くではあったんだけど)。しかしこちらはボブで一杯だ。何も考えられない。ボンヤリしてると、氏は左に曲がって消えていった。私は駅に行くために右に曲がっていた。

こうしてボブとの再会を無事果たし、私はホテルへ帰った。

この後ボブのライブは、最終日に向かうに連れて大きな変化を遂げていく。
それはひと月もの長い間、同じ地に留まるからこそ起きた変化のようでもあった。ステージが観客とともに成長したのだ。

私はおよそ3週間後の千秋楽でそれを目撃することになる。

続く(たぶん)

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