That Lucky Old Sun

Posted on 2015年2月21日土曜日

 That Lucky Old Sun

 ボブ・ディランの新譜「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」にあって唯一の「昼」の曲。
 私には太陽が照りつける中、荒れ果てた畑で一人働くお年寄りがイメージされるんだが、果たして合ってるんだろうか。

 まずはこの曲の簡単な情報から。

 「ザット・ラッキー・オールド・サン (That Lucky Old Sun)」は1949年のポピュラーソング。
 ビーズリー・スミス作曲、ヘイヴン・ガレスビー作詞。
 作詞家のヘイヴン・ガレスビーは誰でも知ってるあの曲「Santa Claus Is Coming To Town (サンタが町にやってくる)」を作曲した人物である。
 もうスタンダードを超えて聖書レベルに古くから存在してる曲だろうと思ってたら、作ったのは最近の人だった(当たり前)。
 That Lucky Old Sun も同じように古くからあるような雰囲気がすごい。この時代から語り継がれている曲というのは現代を生きる私にとってみればすでに神話に近いのかもしれない。
 That Lucky Old Sun を最初にヒットさせたのはフランキー・レイン。
 フランキー・レインは西部劇ドラマ「ローハイド」や映画「決断の3時10分」の主題歌を歌ってた人である。フランク・シナトラと同様イタリア系であり、シナトラと同じようにイタリア系であること表に出すことを嫌がっていたらしい。そんな二人はライバル的存在だったようだ。

 シナトラがこの曲を歌ったのは1949年の10月。当時はシンガーソングライターというのがいなかったからか、ほぼ同年に複数のシンガーが同じ曲を歌ってレコードを出していたみたいだ。
 この年、シナトラの他にはヴォーン・モンロー、ルイ・アームストロングがレコーディングをしている。

 シナトラの歌声は前回のポストの最後に貼り付けあるのでそちらで。

Frankie Laine - That Lucky Old Sun


Vaughn Monroe


Louis Armstrong



 フランキー・レインver. はまさに40年代のヒットナンバーって感じ。中盤から男女コーラスが混じり始めて、上品な雰囲気。シナトラもそうだったけど私が歌の内容に感じていた泥臭さや物悲しさはない。歌詞の内容をストレートに表現するだけが歌ではないということなのだろう。それとも、歌詞とは関係なくこれは明るい曲なのかしら。
 ヴォーン・モンローは声がとにかく渋い。男性コーラスと小刻みなリズムで明るく歌っている。でもちょっと陽気すぎないか…笑
 それぞれ特徴があって良いと思うけど、古風なコーラスの盛り上がり方も含めてルイ・アームストロングのが一番好みかな。声もやっぱ最高だな。


That Lucky Old Sun 

Up in the mornin', 
Out on the job, 
Work like the devil for my pay 
But that lucky old sun has nothin' to do 
But roll around Heaven all day

Fuss with my woman, 
Toil for my kids, 
Sweat till I'm wrinkled and gray 
While that lucky old sun has nothin' to do 
But roll around Heaven all day

Good Lord, up above, can't you know I'm cryin' 
Tears all in my eyes?
Send down that cloud with a silver linin' 
lift me to Paradise

Show me that river, take me across 
And wash all my troubles away 
Like that lucky old sun, 
Give me nothing to do,
But roll around Heaven all day

Good Lord, up above, can't you know I'm cryin' 
Tears all in my eyes?
Send down that cloud with a silver linin' 
lift me to Paradise

Show me that river, take me across
And wash all my troubles away 
Like that lucky old sun, 
give me nothing to do
Let me roll around Heaven all day

訳)
朝起きて、仕事に出かけ
はした金のために体をこき使う
それなのにあの運のいいお天道様ときたら
何ひとつせずに一日中お空でゴロゴロしてるだけ

女房とは揉めて、ガキどもには手を焼き
皮膚はしわだらけで白髪になるまで
汗水垂らしているというのに
それでもあの運のいいお天道様ときたら
何ひとつせずに一日中お空でゴロゴロしてるだけ

天にまします神よ、オレの目から涙が溢れ
泣き叫んでいるのがわからないのか?
希望の光を湛えたあの雲に乗せて
オレを天国へと連れて行ってくれよ

あの川までオレを運んで、川を渡らせ
オレのこの苦労を全て洗い流して
あの運のいいお天道様のように
オレも何もしないでいいようになりたいんだ
一日中お空でゴロゴロしていたいんだ

天にまします神よ、オレの目から涙が溢れ
泣き叫んでいるのがわからないのか?
希望の光を湛えたあの雲に乗せて
オレを天国へと連れて行ってくれよ

あの川までオレを運んで、川を渡らせ
オレの苦労を全て洗い流して
あの運のいいお天道様のように
オレも何もしないでいいように
一日中お空でゴロゴロさせてくれよ


※歌詞は「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」の歌詞カードのもの。フランク・シナトラやその他のアーティストのバージョンとは異なる場合がある。日本語訳詞は「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」の歌詞カードのものに、私のイメージを反映させてみた。


 この曲に出てくる具体的な情景表現は「あの川」のみだ(それすら風景とは異なる)。
 この箇所はどの歌手によっても非常に強調されて歌われていて、曲のハイライトと言える。

 この「あの川」というのは、黒人霊歌(※1)に出てくるヨルダン川のことではないかと言われているのだが、はっきりはしていない。
 黒人霊歌…???
 だとしたら、この歌の登場人物は黒人なのだろうか。私の持っていたイメージのお年寄りは白人だったのだが…、これからは黒人にしたほうがいいんかな??
 そんなつまらない不安を抱えつつ、「川」についてちょっと考えてみた。

※1黒人霊歌…キリスト教信者だった黒人奴隷たちによって作られ歌い継がれてきた独自の音楽。しかし南北戦争以前に歌われていたもののほとんどが改編されたか消滅して残っていない。ゴスペルやブルーズの源流となった。

 例えば、古い歌の「Deep River(深い河)」、民謡の「Michael, Row the Boat Ashore(漕げよマイケル)」、1920年代のミュージカルから生まれた「Ol' Man River(オールマンリヴァー)」、アル・グリーンの「Take Me To The River」、マイケル・ジャクソンの「Will You Be There」は「Hold me, Like the River Jordan(ヨルダン川のように抱きしめて)」と始まるし、彼ら黒人の音楽の中の「川」には重要な意味が込められていることが分かる。
 「漕げよマイケル」の作者フォスターは白人だが黒人労働者に関する楽曲を多く書いているし、たとえ長い年月の間に古い歌に手が加えられたとしても、アメリカの伝統音楽に黒人奴隷や労働者の影響が深く残っているのは事実だろう。

 19世紀の黒人奴隷たちは服従のためにキリスト教を教えられた。そこに書かれたユダヤ人たちの境遇に自分たちと近いものを感じたのかもしれない。そして、モーゼに率いられエジプトから脱出したユダヤの民が故郷への境界線として渡ったヨルダン川を、南部の奴隷州と北部の自由州を隔てるミシシッピー川の支流オハイオ川に照らし合わせたのだろうか。新約聖書ではイエス・キリストが洗礼者ヨハネによって洗礼を受けた川がヨルダン川だった。

Marian Anderson - Deep River 


Pete Seeger - Michael, Row the Boat Ashore 




 こうして黒人霊歌によってアメリカの伝統音楽に深く刻まれた「川」は、その後、人種を問わず苦しむ者達の寄る辺になっていったのだと思う。
 That Lucky Old Sun のイメージは決して黒人労働者が全てではない。
 この曲もまたアメリカの伝統と時代の潮流の中で生み出されながら、すべての人の心に響くからこそ歌い継がれる普遍的な歌になったのだ。

Sam Cooke



Wille Nelson



Aretha Franklin


忌野清志郎





 そういえばこれはボブ・ディランのブログだった(忘れるところであった)。

 実はボブは「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」以前から That Lucky Old Sun を何度も歌っている。
 1985年のファーム・エイドのリハーサルで歌い、その三日後のコンサートで正式に披露。
 86年のツアーでは東京、大阪、名古屋の全4公演も含めて計23回も歌っている。その後は1991年11月ウィスコンシン、92年5月カリフォルニア、95年9月はフロリダ、2000年6月にカリフォルニアで歌っている。
 お気に入りの一曲なんだろうな。

Bob Dylan - 6. 29. 2000


 ちょっと前のボブの歌い方だ〜!!!

 それにしても「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」の That Lucky Old Sun のボブの歌声は近年ベスト級だよね。


【関連する記事】Shadows in the Night


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