そんな曲知らない

Posted on 2014年8月11日月曜日


先々月のことだ。
温泉旅館のカラオケボックスで謎の曲を発見した。

歌手名:ボブ・ディラン
曲名:Jackie [ジャッキー]

何だコレ。

カラオケでボブ・ディランなど、周囲の盛り上がりもイマイチなら自分の歌の出来もイマイチときて歌いにくいことこの上ないのだが、それでもどんな曲が入ってるのかと検索することがある。
このボックスに置いてあったのはデンモクという機器だった。ちなみに私はカラオケのメーカーなどについては全く詳しくない。むしろ何も知らない。
以前、ジャンカラとかなんとかいう店に行ったのだが、機器によるのか、ボブの曲は5、6曲しか入っていなかった(その中になぜか "Summer days" はあった。この機械はボブが "Summer days" を好んでいることを知っている、と感心したものだ)。

この日の「デンモク」には、ボブの曲が十数曲収められていた。
いや、本当にボブの曲か怪しい謎の曲とともにだ。
隠し子が多いとは思っていたが、まさかこんなところで未発表曲に出会うとは!←違う

残念ながら冒頭の理由でこの曲をカラオケ機に掛けることは出来なかった。

そもそもこの「デンモク」は何だか変だった。
盛り上げるために私がよく歌うケリー・クラークソンの "My Life Would Suck Without You" は入っていないし、中島みゆきの「宙船」を歌おうとすると「あのさよならにさよならを」が流れ始めたりするし、ならばとTOKIOで検索したらTOKIOの項に「宙船」は無いという、なかなかにエキセントリックな奴だったのだ。

とにかく、写真を整理していたらそんな出来事があったことを思い出したので、一体この曲の正体は何なのか調べてみた。
歌い出しが表示されているので知ってる人はきっとすぐ分かるのだと思う。

Scott Walker - Jackie (1968)



ボブより2歳年下で今でもご健在のスコット・ウォーカー。
私はあまり詳しくないが、昔はザ・ウォーカー・ブラザーズというバンドでアイドル的人気を博していたとか。
実はこの曲は彼の曲ではなく、ジャック・ブレルのカバーで原曲はフランス語。

ジャック・ブレル!
そうか!ジャック・ブレルの "La Chanson de Jacky"か!
その曲なら知ってるぞ!!


ジャック・ブレルの力強い歌声はコチラ(youtubeの埋め込みコードが無効だった)。

ジャック・ブレルの "ジャッキー" だから、当然歌っているのは彼自身のこと。
「どんなに落ちぶれようとオレは "ジャッキー" と呼ばれていた頃のオレの歌を歌う」と歌うジャック・ブレル。「でもそれは一時間だけのこと。一時間。一時間なんだよ。」と時間を強調するのが切ない。

Jacky (1966 )
Jacques Brel
Même si un jour à Knocke-le-Zoute
Je deviens comme je le redoute
Chanteur pour femmes finissantes
Même si je leur chante "Mi Corazon"
Avec la voix bandonéante
D'un Argentin de Carcassonne
Même si on m'appelle Antonio
Que je brûle mes derniers feux
En échange de quelques cadeaux
Madame je fais ce que je peux
Même si je me saoule à l'hydromel
Pour mieux parler de virilité
A des mémères décorées
Comme des arbres de Noël
Je sais que dans ma soûlographie
Chaque nuit pour des éléphants roses
Je chanterai la chanson morose
Celle du temps où je m'appelais Jacky
(refrain)
Être une heure une heure seulement
Être une heure une heure quelquefois
Être une heure rien qu'une heure durant
Beau beau beau et con à la fois
(長いので1番のみ)


たとえばある日 
そんなのはゴメンだが
オレがクノック・ル・ズートで
くたばり損ないの女たち相手に歌うとしても 
たとえ「ミ・コラソン」と
カルカッソンヌのアルゼンチン人みたいな 
バンドネオン風の声で
彼女たちに歌いかけるとしても
仮にオレがアントーニオと呼ばれて
プレゼントをもらう代わりに 
最後の情熱を燃やして
奥様 なんでもいたします
などと言うとしても 
たとえオレがクリスマスツリーみたいに飾り立てたおばはん連中に 
男らしさについて語ろうと
ハチミツ酒に酔っ払っても 
きっと毎晩 
オレは飲んだくれて 
ピンク色のゾウ達に 
オレがジャッキーと呼ばれていた頃の 
陰気な歌を歌うだろう 
一時間 
一時間だけ 
一時間 
ときたまの一時間 
一時間しか続かない 
素晴らしい
素晴らしいんだ
素晴らしいけど馬鹿げてる


スコット・ウォーカーが歌う英語バージョンも同様の内容だと思う。
とにかくジャック・ブレルの鬼気迫る感じは雰囲気があっていい。スコット・ウォーカー版も悪くはないけど、ちょっと軟派な感じ。そこがいいんじゃない!という声が聞こえてきそうだ。私もそう思う。

しかし、なぜこの曲がボブ・ディランの歌として「デンモク」に入っていたのかは依然、謎である。
スコット・ウォーカーがボブの曲をいくつかカバーしていることは分かったが、それ以上の接点は見つけられなかった。

Walker Brothers - Love Minus Zero (1966)



ジャック・ブレルはボブが尊敬した歌手の一人である。
下層社会の暮らしや貧乏人、人生の皮肉などを歌ったその詩の内容からボブ・ディランと比較されることもある。

この日、日本の片隅の、あるカラオケボックスの「デンモク」のボブの項に "ジャッキー" が潜り込んだのは、天国のジャック・ブレルがかけた魔法だったのかもしれない。
でもそれは英語版だった。ジャック!惜しい!!!!

Ne me quitte pas - Jaques Brel




魔法はまだかけてあった …。


ABBAの魔法が!!!!!!

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